三年間続けてNHKで放送された大河ドラマ「坂の上の雲」が昨日、幕を閉じた。バルチック艦隊との海戦の迫力と、大日本帝国海軍の戦術に魅せられた。

感動的だったのは秋山真之が起草した「連合艦隊解散の辞」が東郷平八郎によって読み上げられたシーンだ。

二十閲月の征戦已に往時と過ぎ、我が連合艦隊は今や其の隊務を結了して茲に解散する事となれり。 然れども我等海軍軍人の責務は決して之が為めに軽減せるものにあらず。
(...)
神明は唯平素の鍛練に力め、戦はずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者より直に之を褫ふ。

古人曰く勝て兜の緒を締めよと。

(現代語訳)
神は平素ひたすら鍛錬につとめ、戦う前に既に戦勝を約束された者に、勝利の栄冠を授けると共に、一勝に満足し、太平に安閑としている者からは、ただちにその栄冠を取上げてしまうであろう。

昔のことわざにも「勝って兜の緒を締めよ」とある。
http://www.z-flag.jp/maxim/tighten.htmlより



この文章は各国語に訳されたそうだ。当時は、国際社会で劣等人種と見なされていたが、この文章を読んだ人は日本人に対するイメージが一変したに違いない。アメリカ合衆国のセオドア・ルーズベルト大統領は一読後、大いに感動し、直ちに筆を執って陸海軍長官に書簡をしたため、これを隷下の陸海軍人に教示するよう促した、そうだ。「勝って兜の緒を締めよ」は"Tighten your helmet strings in the hour of victory."と訳されている。テディ・ルーズベルトも武人なのだ。彼は米西戦争の際に、キューバでラフ・ライダーと呼ばれた義勇軍を指揮した。(ただし彼はいわゆる棍棒外交を行った悪名高い側面も持っている。が。。ここでは伏せておこう)

テディ・ルーズベルトは上記の書簡で以下のように記している。

I commend the above address to every man who is or may be a part of the fighting force of the United States, and to every man who believes that, if ever, unhappily war should come, it should be so conducted as to reflect credit upon the American nation.
「余は以上の訓示を合衆国の軍隊の一員たる者ならびに、もし万一不幸にして戦いが生じた時、祖国の名誉を護るために身を捧げんとする人たちに推薦する。」

THEODORE ROOSEVELT.
CHARIES J. BONAPARTE,
Secretary.
http://www.z-flag.jp/maxim/tighten.htmlより



後に、彼の従兄に当たるフランクリン・ルーズベルト大統領が、日本と太平洋を舞台に戦争を行うことになる。
ロシアでは帝政が崩壊し、ソ連が誕生。そして、前の記事で記した運命を辿る。
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司馬遼太郎の「坂の上の雲」は、僕の好きな小説のうちの一冊。この小説の大河ドラマが作られ続けて、今年で最終部を迎える。昨日はNHKで総集編をやってたのを観たんだけど、今日もたまたまBSかけてたら、ちょうど秋山真之がキューバへ赴いているシーンが映っていた。彼は観戦武官として米西戦争を視察していたのだ。彼がキューバに行かなければ、恐らく小説で扱われるまでの大物になっていなかっただろう。秋山はサンティアゴ・デ・クーバ湾で行われた作戦から閉塞作戦の有効性と問題点をまとめ論文を書いた。それは後に日露戦争における日本海軍の旅順港閉塞作戦に応用された。

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↑旅順↓bahia de santiago de Cuba。どっちも閉塞作戦にぴったり。

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NHKドラマのナレーションは以下のように、解説していた。
多少、神秘的に言えばアメリカとスペインが日露戦争の旅順港閉塞作戦の雛形を秋山に提供してくれるために、闘ってくれたようなものである。天が秋山をキューバへ遣わせた謂れである。
秋山は世界でもっとも熱い独立闘争の地、サンティアゴ・デ・クーバで、日本の独立維持のために日露戦争を勝利へ導いた海戦の理論を築いたのだ。

ドラマ内で米西戦争の勃発を聞いた秋山は、アメリカ軍人が「きっかけが必要なんだよ」と言っていた事を思い出すシーンが、フラッシュバックで描かれていた。戦争には大義名分がいる。1898年2月15日に起こったハバナ湾でアメリカ海軍の戦艦メイン号爆破事件は、真相が不明のまま、この爆破の犯人はスペインだと勝手に決め付けられ、それがアメリカ介入の大義名分になった。実際にアメリカが手を下したかどうか、今となっては分からず仕舞い。ただ、状況証拠、そしてその後の歴史が示すようにアメリカが明らかに怪しい。例えば、ベトナム戦争の勃発の大義名分がトンキン湾事件という茶番だったように。。

米西戦争以前から、キューバは宗主国のスペイン相手に闘って来た。キューバの独立は長年の悲願だった。それをアメリカの介入によって横取りされたのだった。そして、この戦争から約半世紀後、マキシモ・ゴメス、アントニオ・マセオそしてホセ・マルティらかつての独立戦争の闘志の意志を受け継いだ革命家、フィデル・カストロが、民衆からの圧倒的な支持を得て真の独立を勝ち取ったのだ。これを煙たく思ったアメリカは、2度目の「メイン号事件」を起こすことを企んだ(但しこれも証拠がない)それが、1960年3月5日に起きたフランス船ラ・クーブル号爆破事件だ。この時にあの有名なゲバラの写真が撮られた。僕にはあの「ゲリラの英雄」と名づけられた写真のゲバラの瞳からは、長年キューバを汚いやり口で苦しめてきた北アメリカの帝国主義に対して憤った、ゲバラの闘志が読み取れる。
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ちょっと脱線したが、「坂の上の雲」の時代はこうしてみて見ると、ちょうど米西戦争の時期と重なる、つまり世界中が帝国主義に覆われていたことを改めて気づかされる。日露戦争は、日本を征服しようと南下してきたロシアの帝国主義に対する闘いだった。もし、日本が負けていたら対馬には軍事要塞が築かれ、ロシアは容赦なく日本領土を蹂躙していただろう。また、多額の借金を国家がしてたから、その取立てからも苦しんだことだろう。佐世保や横須賀は、ロシアが占領して属国化していく。。。そう考えると、祖国の先人の方々がロシアの帝国主義を打ち破ってくれたことの重みが感じられる。もっとも、日露戦争では乃木将軍のような指揮官が無用に多くの血を流させもしたが。

秋山兄弟のように、純粋に国家のために働ける人が、21世紀の日本に待望される。つい先ほど、明治維新を思わせる名称を掲げた「維新の会」橋下氏・松井氏が当選確実となった。こんなご時勢だからこそ、民衆は浪漫を求める。僕は聊か懐疑的だが、大阪から日本を一新する「大阪都」どこまで真剣に練られた構想なんだろうか。

それはともかく「坂の上の雲」の最終部が放送されるのが楽しみだ。
図書館の自動書庫から古本だが、かなり興味深い本を見つけた。「炎の女性たち―カストロ、ゲバラを支えて十年」 (1969年)。表紙から惹きつけられるものがあるこの本では、キューバ革命を支えた4人の女性の革命家たち(revolucionarias)が熱く描かれている。女性ながらモンカダ兵営での作戦に参加された、アイデ・サンタマリア(Haydée Santamaría)メルバ・エルナンデス(Melba Hernández)さん。ラウル・カストロ夫人である、ビルマ・エスピン(Vilma Espín)さん。そしてカストロさんが一番信頼した秘書セリア・サンチェス(Celia Sánchez)さん。いずれの方もキューバ革命史上、有名な革命家だ。上記の4名のレヴォルショナリアスは、カストロさんを、そしてキューバ革命を縁の下から支えてこられたのだ。
炎の女性たち
燃え盛る表紙とタイトルが示すように、この本に登場する女性たちはキューバ革命に対して、男以上に情熱を燃やされた。著者の山本さんのお言葉を借りれば、セリア・サンチェスは人道的なものに立つ、正義感と、激しい火のような情熱を心の中にたくわえられている。また、たとえビルマ・エスピンのように外見が優雅でろうたけた女性でも、正義の前に、信念のために、一歩もひかない戦い抜く激しい性格を持つ女性がキューバの東部には多い、そうだ。そういえば、「キューバの恋人」の女性革命家マルシアもまた、東部出身という設定だった。東部の人たちの血の中には革命の血が流れている、と言われている。
Tierra Caliente(もえる大地!)
Sangre Caliente(もえる血潮)
と彼らは誇らかに言う。

確かに東部はキューバの歴史が示すように、革命の舞台に違いない。カストロさんの革命以前、かつての宗主国スペインからの独立闘争の中心地も東部だった。例えば、今年クライマックスが描かれるNHK大河ドラマ『坂の上の雲』では、米西戦争における東部サンティアゴ・デ・クーバ湾の閉塞作戦が描かれている。

ちなみにこの本の著者の山本満喜子さんは、『坂の上の雲』に登場する帝国海軍大将、山本権兵衛の孫に当たるそうだ。著者紹介欄のこの記述を見てビックリしたんだが、それ以上に山本さんの経歴に驚かされる。アルゼンチンに渡航され日本学校で教師を勤めながら、タンゴ界に入られ、あのペロンの前で2回舞台上で踊られたそうだ。

なぜ大将の孫娘さんがラテンアメリカに渡航されたのか気になったので調べてみたら、また興味深いエピソードが出てきた。かつての同盟国、ナチスドイツの海軍将校と大恋愛をされ、アルゼンチンへ駆け落ちされたそうだ。。この本で扱われている4名のレヴォルショナリアと同様に激動の人生を、山本さんが歩んでこられたことを十分物語るエピソードのひとつだ。

その後、山本さんは通訳などを勤められ、67年にキューバに渡られた。そして、激動の人生を歩んだキューバの女性革命家のビルマさんやセリアさんと近しい間柄になられた。この山本さんの著書の魅力は、直接、著者が彼女らにインタビューされて記されている点にある。また、キューバの女性の情熱だけでなく、キューバ革命の舞台裏資料としても、この山本さんの著書は貴重であることが分かる。キューバ文化交流会会長まで勤められた山本さんは、どうやらキューバと日本の友好を語る上で欠かせない方のようだ。先の記事で紹介した「キューバの恋人」の仕掛け人のお一人も山本さんだそうだ。

おっと、4名の革命家のことではなく、著者の山本さんの話ばかりになりましたwとにかく面白かったので、この本は再出版されてほしいっすね。大きな図書館ぐらいでしか手に取ることが出来ないのが勿体無い。
足に血豆までつくり、靴を脱げば血が流れたと回想される記述は生々しいというより、痛々しい。それでも、シエラでの闘いは素晴らしい日々だったと回想される4名のレヴォルショナリアス。彼女たちを支えたのは、カストロさんが掲げた理念であったに違いない。どんなに険しい山でも、その先に浮かぶ一筋の雲を目指して行軍する。理想の社会を目指して。。。彼女たちの情熱からは「坂の上の雲」で描かれた明治の日本人の清々しさに似たロマンを感じ取れる。