昨日ラテンビート映画祭で観て来た「雨さえも~ボリビアの熱い一日~」は、ボリビアで実際に起きた「水戦争」を扱った心に残る映画だった。コロンブスの新大陸発見を描くために映画製作陣は、安い労働費用を目当てにボリビアのコチャバンバで、撮影を行う。そして映画のエキストラに選ばれたボリビア人先住民族が多額の水道料金を課す外資企業に反発する抗議運動を展開するという設定だ。巧みな脚本設定の下、コロンブス新大陸発見以後ボリビアから金銀を収奪した搾取構造と、今日ラテンアメリカを苦しめている新自由主義システムが見事に重なる演出だ。

 映画の舞台であるコチャバンバ(Ciudad de Cochabamba)は、チェ・ゲバラがボリビア軍の銃弾に倒れたラ・イゲラ村と首都ラ・パスの中間に位置する、アンデス山脈中の東西に伸びた盆地内にある。年間降水量は約500mmと乾燥した地域で、5月から9月にかけてが乾季であり、降雨は非常に少なく月間数mm程度だそうだ。。。市内は上水道設備の整備の遅れなどから慢性的な水不足になっている過酷な地域。長年独裁政権がのさばったボリビアは怠慢と腐敗が蔓延し、このような過酷な状況を改善しようとしない。そこに目をつけたのが、北の大国の民間企業であった。16世紀では先住民族に対する”教化”政策の名の下、多量の金銀が搾取された。今日では”民営化”の名の下に、ボリビア現地人の生活の営みに不可欠な水が奪い取られたわけだ。
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 この映画内の映画(ややっこしいけどw)を製作する、スペインの映画監督のセバスチャンを演じるのは、ガエル・ガルシア・ベルナル、プロデューサー役のコスタを演じられるのは、ルイス・トサル。安いエキストラ料金目当てにケチュア語を話せる先住民族をエキストラに登用するという設定からも分かるように、彼らもまた搾取する側である。投資資金を集めるために英語でアメリカとやりとりし、現地のエキストラ、ダニエルがそばにいるにもかかわらず、彼のことをfucking good manと愚弄するルイス。16世紀ではスペイン語を話す者が、ケチュア語を話す先住民を酷使した。今日ではスペイン語を話すものたちが、英語を話す人達に仕えていることを描いている。

 そんなコスタも、水戦争に巻き込まれ、先住民族と接していくうちに心境が変わってゆく。水戦争が収束して、ダニエルと心を通わすようになるラストシーンでは不覚にも涙ぐんでしまった。一方ガエル・ガルシアが演じるセバスチャンは、搾取構造に疑問を投げかけはするが、水戦争に深入りするコスタを引きとめようとする。モーターサイクル・ダイアリーズなどでゲバラを演じたガエルのイメージが強く残っているが、この作品では2番手に甘んじている。興味深いのは、映画が過度に投機の対象となっている映画業界の現状も巧みに描かれている点だ。

 この映画の見所は、キューバでスペイン征服者に対して最初に決然たる反逆運動をした人物アトゥエイを映画内で演じるダニエルが、木の十字架に貼り付けられ、ベラスケス指示の下、火あぶりの刑に処せられるシーンだが、とても印象に残っている。見せしめのために集められた先住民族が、アトゥエイの名を歴史に刻むために、叫び強烈なシーン。そこから一転して、今日の水戦争のクライマックスへと移行する演出で、映画を観るものをコチャバンバ水戦争へと誘う。とても臨場感があった。
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 水戦争については軽い知識しかなかったが、この映画に啓発されて早速調べてみた。映画ないでは、コチャバンバ市民が新自由主義に対して勝利する結末で終わるが、実はこの問題はそう単純ではない。水戦争に勝ったからといって、良質の水が供給されるわけでもないのだ。これからは、SEMAPA(ボリビア・コチャバンバ公営水道)が、水という公共財をいかに効率的に供給していくかという課題が残されている。つまり、新自由主義を標榜するエリートと、コチャバンバ民衆との戦いは未だに続いているといえる。彼らは、ラテン・アメリカにIMFの圧力を払い除け、自ら解決の糸口を見出すことが可能であることを示さなければいけない使命を背負っている。

 2つの時代のグローバリズムを映画内で描く脚本の巧みさには圧巻だ。ラテンビート映画祭でしか上映されないのはもったいないと思う。水不足なんか日本と無縁だなンて考えて、観ない訳にはいかない。日本では今週本州に上陸した台風に見舞われ、逆に洪水を起こす事態を目の当たりにしたばかりだ。水は有り余るほどあり、浄化する技術も優れている。しかし、この映画で示しているのは水の争奪戦そのものではなく、グローバリズムを通して展開される新自由主義という搾取構造に他ならない。日本では、郵政民営化の次は、水道事業の民営化が起きるのではないかと懸念されている。我々日本人にとっても、この問題は無縁ではないに違いない。
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