去年の秋、邦訳が出版されたナオミ・クライン氏の「ショック・ドクトリン」を手に入れました。第一章「ショック博士の拷問室-ユーイン・キャメロン、CIA,そして人間の心を消去し、作り変えるための狂気じみた探究-では、CIAが冷戦期に実施してきた拷問技術がどのように考案されたかが描写されていた。拷問の本を読むつもりはなかったので、生々しい記述にちょっと閉口させられつつ、カストロさんの元愛人マリータさんの著書が思い出された。

ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴くショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く
(2011/09/09)
ナオミ・クライン

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諜報員マリータ諜報員マリータ
(1997/07)
マリータ ローレンツ、テッド シュワルツ 他

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簡単にストーリーを述べると、このマリータさんは西ドイツの豪華客船の船長である父とともに革命直後のハバナに寄港した際、カストロさんと出会い2人のあいだに恋が芽生える。結婚にまでは至らなかったが、愛人、秘書としてカストロさんに付き添い、幸せな生活が続いた。そしてマリータさんはカストロさんの子供をお腹に授かった。幸せな生活もつかの間、マリータさんが出産される直前、CIAの刺客によって拉致され強制的に出産させられる。あまりに乱暴なやり口だったのでマリータさんの命が危ぶまれたが、カミーロ・シエンフエゴスの手当てにより、一命を取り留められる。しかしカストロさんとの間に授かった子供の姿はなかった。

自らの子供を奪われ、ショック状態に陥ったマリータさんにCIAが接触し、アメリカでいわゆるマインド・コントロールを行った。マリータさんは薬漬けにされ、子供を奪ったのはカストロだ、君はレイプされたのだなど吹き込まれる。そして彼女は、亡命キューバ人による反カストロのテロ工作員へと育成されたのだった。仲間内で冷たいドイツ人(Alemana fría)と呼ばれるまでになった。こうして、彼女に暗殺指令が与えられた。「かつての愛人であったフィデル・カストロを暗殺し、汚名を晴らせ」と。。。

この本は、どこまで真実なのか分からないが、仮にフィクションだったとしても中々興味深い読み物だ。少なくともCIAによる洗脳の描写は本当のことだろうと僕は思う。

しかし、ショックを与えるだけでヒトはいとも簡単に洗脳されるのか?マインド・コントロールのもう一つの秘訣は、孤独常態下に陥れ、愛情攻勢に出ることにある。神経が衰弱したマリータさんのもとに、アレックスという名のFBI捜査官が接触し、彼の誠実さにマリータさんは心を開く。敬虔なカトリック教徒でもあったアレックスは声高に主張した
「共産主義は神を否定する悪なのだ。カストロは反キリストだ。人殺しは間違っているが、ときには、神にとって有害な人物を殺すことなら神は許してくださる。フィデルを殺すことなら神は許してくださる。フィデルを暗殺することは神の名において正当化できる」と

洗脳するという目的とは別に、おそらくこのFBI捜査官は本気でそのようなことを考えていたのだろう。まるで中世の異端諮問官のようだが、ローマ法王が聞かれたら卒倒されることだろう。なにもカトリック教会が悪いのではない、悪いのは教会を利用していたCIAのほうだ。アレックスというFBI捜査官もまた洗脳されていたのだ。そして彼は、上述のカストロ暗殺指令が与えられ、ハバナへ向かうマリータさんを見送った。「神と祖国のために」と念を押しながら。

ここからストーリーはドラマチックな展開になる。ここでは端的述べるが、カストロさんの部屋に愛人として戻ったマリータさんは、計画を見破られる。
「やつらは私を殺すためにおまえを送り込んできたのか?」と
虚をつかれ戸惑うマリータさんにカストロさんは、自分の45口径拳銃を彼女に差し出した
「私を撃てるのか、マリータ?」
銃を構えるマリータさんの前で、カストロさんは目をつぶり葉巻を吸いながら平然としていた。
「わたしは、殺すことができない」
カストロさんは彼女を抱きしめながら悲しげに応えられた。
「だれもできないんだ、マリータ、だれもわたしを殺すことは出来ない。おまえの心の痛みがわからないとでも思っているのか?」

ショック・ドクトリンという拷問の教科書は、一時的に対象を洗脳することは出来ても、やはり本質的にはヒトを変える事が出来ないのだろう。赤ちゃんを誘拐し、マリータさんに強烈なショックを与え、洗脳し、カストロ暗殺に利用したCIA。しかしショック・ドクトリンの弾丸は、カストロさの言う、「モラルの防弾チョッキ」を貫くことは出来ないことが証明するに終わった。



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