この時期になるとゲバラの広島訪問をテーマに書くことが恒例となっていますね。今年はゲバラを扱った映像作品で僕が一番好きなトリスタン・バウアー監督のドキュメンタリーChe, un hombre nuevo「チェ、新しい人間」(邦訳版未出)を題材にしようと思います。



この作品の冒頭でゲバラがボリビアへ発つ前に、妻のアレイダさんへ遺した詩が紹介されます。セサール・バジェホというペルーの詩人の「黒い使者たち」。この作品で初めて公開されたこの朗読の録音音声からゲバラの強い感受性を感じ取ることが出来ます。

バジェホは日本語で記された資料はほとんどないのが現状です。僕もこのドキュメンタリーを観るまでは知りませんでした。作品の録音音声でゲバラが朗読している「黒い使者たち」については大阪大学世界言語研究センターの松本健二氏が下記の論文で考察されていました。論文内には「黒い使者たち」の全訳も掲載されています(69ページ)。今回の記事で是非紹介したいと思い松本氏に問い合わせたところ、「論文は電子化されアクセスフリーですので、いかようにでもご使用くださいませ。」とのことだったので下記にリンクを掲載します。

二つの伝統の狭間で : セサル・バジェホ『黒い使者たち』に関する一考察
http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/handle/11094/9351


繰り返し強調されている箇所だけ以前、紹介しましたが全訳は上記の論文を参照してください。

読者には上記論文の訳文を参照して頂いたうえで、話はトリスタン・バウアー監督のドキュメンタリーChe, un hombre nuevo「チェ、新しい人間」に戻りますが、この作品の冒頭でこの「黒い使者たち」朗唱後にゲバラが広島から妻のアレイダさんに宛てた手紙が紹介されます。この一連の編集によってゲバラが革命闘争の原動力となっているものが、彼の詩の朗読から垣間見えるように思いました。バウアー監督はこのDVDのチャプター操作などが出来るタイトル画面にもこの広島からゲバラが書いた手紙を挿入しているので、バジェホの「黒い使者たち」朗読とともに、作品の冒頭部は特に強い思いをもって制作されていると感じました。



手紙だけでなく帰国後記したゲバラの報告書でも、彼が広島で感じ取ったことを読み解くことが出来ます。
Setenta y cuatro mil nombres de personas que pudieron ser identificadas es todo lo que contiene el catafalco... y la ira impotente, la desesperación concentrada, de quienes han visto perecer a tanto ser humano en una inigualada orgía de fuego y muerte.
身元が確認できた7万4千名の方の名前が、その慰霊碑に刻まれている。灼熱の炎のなか、死んでいったヒトを目の当たりにした者達の、やり場のない憤り、果てしない絶望

(…)
Todo es nuevo en Hiroshima, reconstruido después de la espantosa explosión, pero señales indelebles de la tragedia flotan sobre la ciudad y en los nuevos edificios, réplicas exactas, muchas veces, de los que anteriormente ocupaban el lugar.
恐ろしい爆発の後に復興された広島では、何もかもが新しい。しかし消すことのできない悲劇の痕跡は、爆弾が投下された所に位置していた建物の、当時のまま残されたレプリカの中を漂っている。
2012.08.06 広島で抱いた想いを糧に~ゲバラが記した"平和へのメッセージ "~

僕も小学生のころ、広島の被爆者の写真を初めて見たときは強い衝撃を受けたものですが、これはバジェホの「黒い使者たち」でいうところの「かくも強い衝撃があるとは、私には解せない」といった心境でしょうか。感受性の強いゲバラは僕よりもはるかに強い衝撃を受けたと思いますが、「私には解せない」で終わらず、二度とこのような悲劇を起こさせないための自らの闘いの糧へと昇華させたように感じられました。

先の大戦では広島だけでなく言葉を絶するような地獄絵図が世界中で繰り広げられました。とくに民間人がかくも惨く虐殺される様は目を覆いたくなります。ユダヤ人に対するホロコーストもその一例でしょう。人類は歴史から学び同じ過ちを犯さないようになったのでしょうか?

否、現在のニュースを観ていれば、先の大戦と同じようなことが21世紀においても繰り返されていることが分かります。先の大戦で被害者であったユダヤ人の国家イスラエルはガザ地区に侵攻し、民間人を戦火に巻き込んでいます。

ガザ地区の悲惨な状況を伝える報道は私たちに強い衝撃を与えますが、「私には解せない」で終わり無関心なってはいけませんね。連日報道される衝撃的なニュースから恐怖や不安を抱くだけでなく、ゲバラのように平和のためのエネルギーへと昇華させることが今私たちに求められていることではないかと考えさせられます。
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